分子生体防御学講座

附属教育研究施設 バイオメディカルリサーチセンター

講座名 分子生体防御学講座
講座名(英語) Stress Response Science
研究室構成 教授:伊東 健
講師:三村 純正
助教:葛西 秋宅、多田羅 洋太
概要 バイオメディカルリサーチセンターの分子生体防御学講座は,研究スタッフを中心に,分子生物学やマウスの遺伝子工学の手法を用いて,酸化ストレスや栄養飢餓ストレスに対する恒常性維持機構,遺伝子発現調節機構などの生命現象に着目し,臨床応用に貢献することを目標に研究を行っている。
関連URL 分子生体防御学講座 公式ホームページ

研究テーマ

翻訳停滞センサータンパク質GCN1の生理的役割の解明

これまでGCN1は翻訳中のリボソームに結合し,アミノ酸飢餓に応じた翻訳抑制と遺伝子発現誘導に必須の分子として知られてきたが、我々はGcn1欠失マウスの解析から,GCN1がアミノ酸飢餓応答のみならず細胞増殖および正常な胎児期の成長に必須であることを明らかにした。Gcn1欠失マウスは致死となるが,成獣での時期特異的な条件付きノックアウト(cKO)マウスでは肝臓脂質の代謝異常を見出した。現在,GCN1による脂肪代謝のメカニズムの解析を進めるとともに,臓器特異的なGcn1 cKOマウスの作製と表現型解析を進めている。

翻訳停滞センサータンパク質GCN1を介した細胞増殖制御機構の解明

生体内ではmRNAのコドン配列や損傷,アミノ酸飢餓などによって翻訳速度が変動し,翻訳停滞したリボソームに後続のリボソームが衝突することが知られている。真核生物ではZNF598(酵母ではHel2)およびGCN1がこれを認識し,ZNF598は停滞リボソームをユビキチン化して解体する(リボソーム関連品質管理、RQC)。一方,GCN1は翻訳エラーの程度に応じて,停滞リボソームの翻訳促進,異常タンパク質や翻訳因子の分解,および全体の翻訳開始の抑制を誘導する。Gcn1欠失細胞ではG2/M期停止による増殖抑制と翻訳伸長の低下が見られるものの,GCN1の下流の分子メカニズムは不明であり,現在,次世代シーケンサーや質量分析を用いた網羅的解析を進めている。

酸化ストレス応答転写因子Nrf2活性化による加齢性疾患の予防・介入

NF-E2-related factor 2(Nrf2)は外来異物や炎症などによる酸化ストレスに応答し,抗酸化タンパク質や解毒酵素の遺伝子発現を誘導する生体内の抗酸化システムの司令塔として知られている。近年,Nrf2活性化が抗炎症や神経保護に関わる遺伝子発現を誘導し,アルツハイマー病をはじめとする加齢性神経変性疾患の治療戦略として注目されている。我々はこれまでNrf2活性化剤であるスルフォラファンの前駆体の摂取により,加齢マウスの海馬においてミトコンドリア機能維持に関わる遺伝子発現誘導および認知機能の改善を見出した。また,軽度認知障害のある高齢者に対しても認知機能維持に寄与することが示された。詳細な分子メカニズムについて,分子・細胞・個体レベルで解析を進めている。

統合的ストレス応答経路およびNrf2転写活性化経路のクロストークの解析

アミノ酸飢餓や小胞体ストレス,ウイルス感染,ミトコンドリア異常や活性酸素種といったストレスは翻訳開始因子eIF2αのリン酸化を誘導し,全体的な翻訳開始を抑制すると共に転写因子であるATF4(酵母ではGCN4)を活性化させて,アミノ酸生合成や抗酸化に関わる遺伝子発現を誘導する統合的ストレス応答経路が知られている。これまでプロテアソーム阻害剤やカルノシン酸がATF4およびNrf2を活性化させ,グルタチオン合成に関わる遺伝子発現を協調的に誘導することを明らかにした。また,ストレスの長期化によってATF4標的遺伝子のCHOPが発現し細胞死を誘導するが,Nrf2活性化はこれを抑制する報告がある。神経変性や腎疾患などATF4活性化が見られる疾患に対して,Nrf2活性化剤を用いることで細胞保護および治療改善につながる可能性について,これらの経路のクロストークを中心に解析を進めている。

2型糖尿病におけるインスリンのパースルフィド化の意味

2型糖尿病の初期段階ではインスリン合成の需要が高くなることで、インスリンを合成している膵β細胞がストレスを受けている。このストレスに対して膵β細胞は統合ストレス応答(ISR)と呼ばれる経路を活性化させることでストレスに対処する。ISRにより細胞内の抗酸化反応に関わる還元型パースルフィドが増加し、これにより細胞内タンパク質がパースルフィド化(システインの-SHが-SSHとなる)という修飾を受ける。
インスリンもパースルフィド化修飾を受けることが予想されているが、インスリン パースルフィドの機能についてはほとんど知られていない。2型糖尿病とインスリンのパースルフィド化との関連を明らかにするとともに、インスリン パースルフィドの機能を解明することを目的とした研究を行っている。
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